BtoB ECサイトの導入を検討する企業担当者に向けて、構築前の準備からプラットフォーム比較、運用改善の要点までを体系的にまとめました。自社に最適な仕組みを導入するための実践的なヒントが得られます。
BtoB ECとは何か?

企業間取引をオンラインで完結させるBtoB ECは、近年急速に拡大しているビジネスモデルの一つです。FAXや電話による煩雑な発注業務をデジタル化することで、受発注の効率化や取引精度の向上を実現します。とくに製造業や卸売業では、営業活動や在庫管理の業務負担を軽減しつつ、新規取引先の開拓にも貢献しています。
BtoCとの違いと基本構造
BtoB ECとBtoC ECは、どちらもオンラインで商品を販売する仕組みですが、その構造や目的には大きな違いがあります。たとえば、BtoCでは「誰でも閲覧・購入可能なサイト」が基本ですが、BtoBでは「取引先ごとに価格や商品を変えるクローズド環境」が一般的です。
主な違いを整理すると、以下のようになります。
項目 | BtoC EC | BtoB EC |
---|---|---|
顧客層 | 一般消費者 | 法人・事業者 |
価格体系 | 一律(キャンペーンあり) | 顧客別・数量別の個別価格 |
購買プロセス | 即決購入が主 | 複数人の承認や見積もりが必要な場合が多い |
支払い方法 | クレジットカードなど | 掛け払い、請求書後払いなど |
商品ロット | 単品が基本 | まとめ買い・最小ロット制が一般的 |
たとえば、アスクルやモノタロウのようなBtoBサイトでは、ユーザーがログイン後に初めて閲覧・購入ができる構造を採用しています。これは、取引先の属性に応じて異なる情報を提供するためのもので、個別対応が前提となる法人向け取引ならではの工夫です。
BtoB EC市場規模と今後の成長性
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査(2023年版)」によると、日本のBtoB EC市場規模は約420兆円を超え、前年比で増加傾向にあります。EC化率(全取引に占める電子商取引の割合)も35.6%に達し、業界全体が着実にオンラインシフトを進めていることがわかります。
電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省)
特に注目すべきは、中小企業によるBtoB ECの活用が進んでいる点です。従来は電話・FAXでの注文が主流だった業種でも、リモート対応や業務効率化の流れを受け、EC導入の動きが加速しています。クラウド型のプラットフォームやサブスクリプションモデルの登場により、初期コストを抑えつつ短期間でECを立ち上げられる環境も整ってきました。
さらに、BtoB ECは単なる受発注システムではなく、「マーケティング」「CRM」「在庫最適化」といったデジタル施策と連携することで、より高い営業成果を生むツールへと進化しています。

これからの成長戦略を考える企業にとって、BtoB ECは単なる効率化ではなく「収益基盤の再設計」に直結する存在といえるでしょう。
注目を集めるBtoB ECサイトの事例とランキング


どの企業もEC化の波に乗りたいと考えるなかで、「どのようなBtoB ECサイトが成果を出しているのか」は非常に重要なヒントになります。
成功しているBtoB ECサイト一覧
業界問わず導入が進むなかで、代表的な成功事例としてよく挙げられるのが「アスクル」「モノタロウ」「カウネット」などの大手BtoBプラットフォームです。
- アスクル株式会社
オフィス用品を中心とした圧倒的な品揃えで、法人向けECの先駆けとして高いシェアを維持。ユーザーは納品スピードの速さと価格の透明性に満足しており、ITリテラシーが高くない業種にも利用が広がっています。 - モノタロウ
製造・工場向け部品に特化しながらも、検索性とレコメンド機能の高度化によって、営業を介さずに購買完結できる点が支持されています。導入企業数は500万件を超え、業務効率化を実現しています。 - カウネット(コクヨグループ)
法人向けに特化したUX設計で、発注・再注文がスムーズ。部署別に予算管理ができる機能など、企業購買の煩雑さを解消する仕組みが充実しています。
いずれも、業界の特性を熟知しながらも、共通して「見やすさ・探しやすさ・再発注のしやすさ」を徹底しており、BtoBに求められるスピード感と安定性に応えています。
ユーザー支持が高いBtoB ECサイトランキング
以下は、2024年に法人利用者からの評価が特に高かったBtoB ECサイトを基にしたランキングです。(独自調査と複数レビューサイトの情報をもとに編集)
順位 | サイト名 | 主な強み |
---|---|---|
1位 | モノタロウ | 商品検索のしやすさと在庫表示の正確性 |
2位 | アスクル | 翌日配送と簡単なUI |
3位 | Amazon Business | 圧倒的商品数と法人向け価格設定機能 |
4位 | カウネット | 部署別発注とアカウント管理の柔軟性 |
5位 | ASKUL LogiMo Pro | 物流業者向けの業務効率特化設計 |
このランキングから見えてくるのは、「どれだけ日常業務のストレスを軽減できるか」が選ばれるポイントになっているということです。システムや機能性がいくら高くても、実際の使い勝手や現場への浸透が伴わなければ意味がありません。
サイト設計の参考にする際は、「誰が使うのか」「何を求めているのか」を掘り下げることが最初の一歩です。
BtoB ECプラットフォームの比較と選び方


BtoB ECサイトを構築する際、どのプラットフォームを選ぶかによって運用の効率や拡張性に大きな差が出ます。高額な開発費をかけてから後悔しないためにも、各プラットフォームの特性と自社との相性を見極めることが重要です。
国内外の主要プラットフォーム一覧
現在、BtoB EC構築において利用されるプラットフォームは、大きく「クラウド型」「パッケージ型」「オープンソース型」に分けられます。それぞれの特性を理解し、目的に合った選定が必要です。
主なクラウド型サービス(SaaS)
- Bカート(国内)
シンプルなUIと業務に即した機能が特長。中小企業の導入実績が多く、最短1週間で開設可能。 - アラジンEC(国内)
販売管理との連携を重視。多品目・多SKUでもスムーズに運用できる点で製造業に人気。 - Shopify Plus(海外)
グローバル展開に対応。BtoB向けにも柔軟にカスタマイズ可能で、越境ECに強み。
主なオープンソース・パッケージ型
- EC-CUBE B2B(国内)
拡張性が高く、フルカスタマイズ可能。ITリテラシーのある企業やSIerとの連携が前提。 - Magento Commerce(海外)
エンタープライズ向けに最適。複雑な価格設定や商流の管理も可能だが、導入には高度な技術が必要。
プラットフォーム | タイプ | 得意分野 | 導入企業例 |
---|---|---|---|
Bカート | クラウド型 | 中小企業向け | アパレル・日用品 |
アラジンEC | クラウド型 | 多品目取扱い | 製造業・部品業界 |
Shopify Plus | クラウド型 | グローバル展開 | 海外取引が多い企業 |
EC-CUBE B2B | オープン型 | 独自構築 | IT系・スタートアップ |
Magento Commerce | パッケージ型 | 大企業・複雑業務 | 医療機器・商社 |
使いやすさを重視するか、柔軟性を優先するか。この見極めが成否を分けます。
業種別に見る最適な選定ポイント
業種や取扱商品、販売ロジックによって、適したプラットフォームは異なります。たとえば、日用品や消耗品を扱う企業では、リピート注文や定期購入への対応が重要になります。逆に、機械部品や高単価商品を扱う企業では、見積もり機能や与信管理、ログイン制限などが必須です。
業種ごとの選定ポイント
- 製造業(部品・資材):在庫連携・掛け売り対応・商品マスタの階層管理
- 食品業界(業務用食材):賞味期限管理・定期発注・配送ルート指定
- アパレル(小売向け卸):SKU展開(色・サイズ)・在庫可視化・ブランド別管理
- 建築資材業界:現場別配送・代理店管理・重複発注の回避機能



どのプラットフォームを選ぶにしても、「自社の業務にフィットすること」が最優先です。提供される機能の多さではなく、「必要な機能があるか」を見極める視点を持ちましょう。
自社に合ったBtoB ECサイト構築の流れ


BtoB ECの成功は、システムの選定よりも「構築前の設計」にかかっています。誰のために、どんな業務をどう効率化するかを明確にせずに進めると、時間と費用ばかりがかかってしまいます。
導入準備と要件定義のコツ
EC構築前に最も重要なのが、「目的の明確化」と「関係部門の巻き込み」です。営業・受注・在庫・経理など各部署に影響が及ぶため、現場の業務フローを洗い出すことから始めましょう。
要件定義では、以下のような観点を整理すると失敗を防ぎやすくなります。
- 誰が使うのか(社内ユーザー・外部顧客)
- どんな注文スタイルか(定期/スポット/見積もり)
- 既存システムと連携する必要があるか(基幹/在庫/会計など)
要望はすべて盛り込むのではなく、「実現したい業務成果」から逆算して優先度を付けることが肝心です。
クラウド型・オンプレミス型の違い
BtoB EC構築では、「クラウド型(SaaS)」か「オンプレミス型(自社サーバ構築)」の選択が大きな分かれ道になります。それぞれのメリット・デメリットを比較してみましょう。
項目 | クラウド型 | オンプレミス型 |
---|---|---|
初期費用 | 比較的安価 | 高額になりがち |
導入スピード | 数週間〜1か月で導入可 | 数か月〜半年以上かかることも |
カスタマイズ性 | 制限あり | 自由度が高い |
運用・保守 | プラットフォームが対応 | 自社内または委託での対応が必要 |
セキュリティ・統制 | 標準的だが設定が限定される場合も | 完全に自社管理できる |
スピード重視や費用を抑えたい場合はクラウド型、大規模かつ独自仕様を追求したいならオンプレミス型が向いています。特に業務プロセスが標準化されていない企業は、自由度のある設計が求められる場面が多いでしょう。
フルスクラッチ開発の可否と判断軸
一部の企業では、「自社に完全に最適化されたBtoB ECを構築したい」として、ゼロからの開発(フルスクラッチ)を検討します。ただし、これは相当な覚悟とリソースが必要です。
フルスクラッチを選ぶべきかどうかの判断には、以下の軸が参考になります。
- 既存のサービスで実現できない独自仕様があるか
- 社内に開発チームがある、または信頼できる開発パートナーがいるか
- 中長期的な運用体制を維持できるか(保守・改修含む)
ある建設機材の卸企業では、受発注に特殊なルールがあり、既存のプラットフォームでは対応困難と判断。社内SEを中心にスクラッチ開発を行い、取引先ごとの価格変動や数量条件を自動化するECサイトを完成させました。結果、業務工数を半減し、営業の提案力も高まりました。
ただし、開発後の運用負担は決して軽くありません。導入の段階で「構築後に誰がどう管理するか」を明確にしておかないと、長期的に機能しないサイトになるリスクがあります。
構築後に成果を出すための運用ポイント


BtoB ECサイトは、構築しただけでは成果につながりません。むしろ重要なのは、公開後の運用によってどれだけ売上と業務効率を高められるかです。ここでは、継続的な改善と仕組みの最適化によって成果を生むための3つの運用ポイントを解説します。
顧客管理・価格設定の最適化
BtoB取引では、顧客ごとに異なる条件や価格設定が一般的です。EC化することで、この煩雑な業務を自動化・可視化できるのが大きなメリットです。
たとえば、建材卸企業では、得意先ごとに「特別単価・支払い条件・最小発注数」を設定。これをシステムに登録しておくことで、担当営業がいなくても同じ条件で発注できる仕組みが整いました。顧客別マスタを活用すれば、営業部門の知識をサイトに集約することも可能です。
さらに、RFM分析(購入金額・頻度・最終購入日)を用いて顧客セグメントを整理し、リピート促進や単価アップの施策も展開できます。
SEO・広告・UI改善による集客支援
BtoBであっても、「見つけてもらう努力」は欠かせません。とくに新規開拓を目的とするなら、検索対策(SEO)と広告の組み合わせは不可欠です。
SEOでは、製品名や型番に加え、「用途×業種」といった複合キーワードでの集客が効果的です。ある工業製品の卸サイトでは、「ステンレス ネジ 食品工場」というロングテールワードで上位表示され、営業経由では出会えなかった顧客層からの注文が増えました。
また、UI改善も重要な施策です。商品検索の速度やカテゴリ構造、カート投入のしやすさが離脱率に直結します。定期的にGoogleアナリティクスやヒートマップを活用し、どこで顧客がつまずいているのかを検証しましょう。
広告施策としては、Google広告や業界特化型のBtoBメディア広告などが有効です。1件の顧客獲得が長期的な売上につながるため、費用対効果はBtoCより高いケースが多く見られます。
他システム連携とデータ活用
BtoB ECは単独で完結する仕組みではありません。受注後の在庫引当・出荷・請求といった業務フローとの連携が不可欠です。そこで鍵になるのが、基幹システムや会計ソフトとのデータ連携です。
たとえば、販売管理システムと連携すれば、在庫変動をリアルタイムで反映でき、欠品によるトラブルを防げます。帳票の自動発行や取引履歴の蓄積によって、請求処理もスムーズに進行します。
また、蓄積されたデータをもとにした「業績分析」も可能になります。商品別の粗利や季節ごとの需要変動を数値で把握し、次の販売戦略につなげる動きが生まれます。
成果を上げ続けるEC運用とは、改善の積み重ねそのものです。小さな変更が大きな成果を生むこともあります。
よくある質問
- BtoB ECサイトとは何ですか?
-
BtoB ECサイトとは、企業同士の取引をオンライン上で完結できる仕組みを持つサイトのことです。FAXや電話による発注をWeb化し、見積もりや価格交渉、掛け払い対応など法人特有の商習慣に対応しています。業務効率化や営業コスト削減、新規取引先の獲得などを目的に、多くの企業が導入を進めています。
- BtoBのECサイトの売上ランキングは?
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日本国内で売上規模が大きいBtoB ECサイトの代表は「モノタロウ」「アスクル」「Amazon Business」などです。とくにモノタロウは2023年時点で年商2,500億円超とされ、法人向け部品販売に特化した成功事例として注目されています。業界によって上位サイトは異なりますが、取扱品目と対応機能の幅広さが評価されています。
- ECサイトBtoBの費用はいくらですか?
-
BtoB ECサイトの費用は選ぶプラットフォームや機能要件によって大きく異なります。クラウド型なら初期費用が10〜50万円、月額は2〜10万円程度が一般的です。一方、パッケージ型やフルスクラッチ開発では、初期費用だけで500万円以上かかることもあり、保守やカスタマイズ費用も別途必要です。
- BtoBサイトの最大手は?
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国内最大手のBtoB ECサイトとして知られるのは「モノタロウ」です。製造業や建設業向けの消耗品を中心に、幅広い品揃えと高い検索性を武器に成長を続けています。取引企業数も数百万社にのぼり、業界内でも圧倒的な認知度と信頼を誇ります。海外では「Amazon Business」も巨大なBtoB市場を形成しています。
- BtoB-ECのメリットは?
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BtoB-ECには多くのメリットがあります。代表的なのは、受発注業務の効率化、人為ミスの削減、取引履歴の可視化、営業コストの削減、新規顧客の開拓などです。また、顧客ごとの価格設定や在庫連携、与信管理なども自動化でき、従来のオフライン取引では難しかった柔軟な対応が可能になります。
- スモール型BtoB ECサイトとは?
-
スモール型BtoB ECサイトとは、限られた商品数や顧客数でスタートする小規模向けのBtoB ECのことです。初期投資を抑えつつ、段階的に拡張できる点が特長です。たとえば定番商品のみに絞って運用し、運用に慣れてから機能や商品数を増やすなど、成長に合わせて柔軟に展開できる構成です。中小企業やスタートアップにも適しています。
BtoB ECサイトは正しい選定と運用で、業務効率や売上に大きな効果をもたらします。本記事を参考に、自社の強みに合ったEC戦略を具体的に進めてみてください。
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